オペラの最後に行われるカーテンコール。物語が幕を下ろした後に出演者一人一人がお客様から拍手をいただくアレには大まかな順番があります。合唱やダンサーから始まり脇役から主役へ、そして主役は指揮者を招き入れ指揮者はオーケストラを紹介するのですが、実はこの後に出てくる人物がいます。『演出家』です。
オペラの稽古は音楽稽古→立ち稽古→舞台稽古という流れで行われていきますが、立ち稽古からリーダーシップを取るのが演出家です。演劇と同じように「芝居をつける」のが演出家のお仕事。で・す・が。オペラというのは歌と芝居の融合作品。全てが演出家の思い通りになるわけではありません。というのもこのブログで散々お話ししている通りオペラには指揮者という音楽のリーダーが存在していて本番では舞台と客席の間で指揮をしています。指揮者と歌い手が本番中にコンタクトを取ることは必須なので、いくら演出家が「あなたにはずっと後ろを向いていてほしい!」と懇願したとしても「そりゃオペラじゃ無理だ」という話になってしまうわけです。指揮者という音楽のリーダーと、演出家という芝居のリーダーが存在することでこの辺りの綱引きも重要になってきます。演出的に「そこの言葉の言い方は〜」となると、オペラとしては「そこの言葉の歌い方は〜」となるわけで、ではこれは音楽の領分?芝居の領分?という問題が生じます。はっきり言って正解はありません。指揮者と演出家と歌い手が建設的なディスカッションを重ねるしかないですね。これが非常にうまくいったプロダクションは本番のクオリティもとても高くなります。ここをサボると・・・・。
僕自身がVivid Opera Tokyoで演出する際に気をつけていることは、出来る限りテキストだけではなく楽譜から舞台を組み立てていくことです。テキスト(台本)のみから想像を膨らませることは簡単です。しかしオペラには音楽がついていて、テキストという『点』のみでなく、音楽というもう一つの『点』があることですでに『線』になっています。この線から立体的なものを構築していかないと舞台には必ず無理が生じます。音楽と芝居の齟齬は、歌手に負担をかけることになり、それは客席に伝わります。(逆に言えばどんな齟齬も感じさせずに歌い演じる歌手はとても好まれます笑)
良い演出家ってどういう人のことを言うのでしょう。数回に渡って掘り下げていきたいと思います。