-指揮者編②-
指揮者ってすごいんです。
きっと音楽の演奏経験のない人は
「あの真ん中に立ってる人、ただ棒振ってて、何も音出してないのに、なんで1人で拍手もらっちゃってるの?」
と思っているに違いない。
わかります。でも待って。
あの”真ん中に立つ”ということ、とんでもなく緊張すると思いませんか?
お客様の視線だけでなくオーケストラや歌手陣の
「ちゃんと導いてくれよ?」という圧力!
その期待に音を出さずに応えなければならないんです。
短距離ランナーがあの天下のウサイン・ボルトさんに「もうちょっと腕振った方がいいよ」と言われたら「この人が言うんだから間違いない!!」となるかもしれませんが、もしただの小太りのおじさんに同じこと言われても「はぁ!?」と簡単には納得できないと思います。
指揮者は”演奏の実力”でイニシアティブを取ることが出来ません。
では何を持って大勢の演奏家の先頭に立つのでしょうか。
僕が思うに、それは【耳】と【カリスマ性】です。
“耳が良い”というのは音楽家にとって大事な武器の一つで、ましてや指揮者にとっては必須要素です。
誰かが間違った音を出した時に指摘することが出来て、和音のバランスを整えることが出来ること。
和音というのはド・ミ・ソのように同時にいくつもの音が鳴ることで聞こえてくる音の重なりのことです。
ただドミソが同時に鳴ればいいわけではなくて、ベストなバランスがあります。
森三中さんが3人並んだ時に、大島・村上・黒沢の順で村上さんが少し前に出ていると納まりがいいですよね?それと同じです。
自分で音を出しているとそのバランスがなかなかわからないので、一人一人に指示を出して整えるのも指揮者の仕事です。
大島・村上・黒沢
↑
「黒沢さんだけ出過ぎですよー、もう少し周りとバランスとってくださいー」と伝えるお仕事。
クラシック音楽の稽古ではこれが続きます。
指揮者はあの手この手で自分の思い描く音楽のイメージを演奏者に伝えていきます。
そのやり取りの中で「あ、音が良くなった」とか「この人の方向性良いかも」と思ってもらえるかどうか。
指揮者はお客様に喜んでもらう前に、演奏者を魅了しなければならないのです。
耳が良くて音のことばかり言っていても良い演奏にはなりません。
楽譜に「弱めに弾く」と指示があるからといって、全員が音量を小さくするだけじゃ面白くないのです。
「ここは遠くの水平線から朝日が差すように」とか「初恋を思い浮かべて」と言葉にして伝える指揮者もたくさんいます。その一言で音の色味がガラッと変わるから不思議です。一つのルールよりも一つの経験や感情の方が、僕たちは共有し合うことが出来るのかもしれません。
ただ指揮者によっては稽古中、何も言わず首を横に振るだけの人もいます。大ベテランです。
この動画はエッシェンバッハさんという指揮者が本番なのに全く指揮棒を振りません!笑
しかしそういう人の姿を見ているだけで音楽のイメージが伝わって来ます。
棒先・指先・体全体から見えない何かが出てくるのです。
僕にも一度そういう経験があって、それは小澤征爾さんです。