2021年の小澤征爾オペラプロジェクトは昨今の状況を鑑み、中止となったそうです。
出演者やスタッフだけではなくオーケストラのメンバーも世界各国から参加するためなかなか難しいだろうなと思ってはいましたが、いざ中止が発表されると寂しいものですね。2016年から4年連続で参加させていただいているので生活の一部のように感じていたものが2年続けて中止はつらいです…。京都に行って美味しいものを食べられないのもつらいです…。
このプロジェクトは本番の2週間前には京都入りし、本番の劇場(新しくて綺麗なロームシアター)で稽古を重ねます。ホテルから劇場への道には京都の街並みがあり、鴨川が流れ、遠くには大文字焼きの「大」の字が見えます。劇場という職場に徒歩で通えるのは良いなぁと。ヨーロッパなどでは専属歌手という劇場に所属する制度があるので、劇場近くに住むことが多いそうです。毎年3月の京都での生活はその擬似体験をすることが出来るのでとても気に入っています。ちなみに日本には専属歌手制度はほぼありません。びわ湖の畔にあるホールにはびわ湖ホールアンサンブルという団体があり、国内唯一の専属歌手制度と言っても良いのではないでしょうか。Vividメンバーの阿部奈緒さんが今年から参加しております。阿部さんにびわ湖での生活など聞きたいですね。
2016年は僕にとって初めての京都生活でした。しかし僕に街を楽しむ余裕はありませんでした。
この年の演目はヨハン・シュトラウスII作曲のオペレッタ【こうもり】。超絶楽しいお話です。僕の出演は2幕の夜会のシーンだったのですが、突然ある日の合唱稽古に演出助手さんが現れ、僕はセリフのある役をやる事に。役名はカリコーニ。この作品をご存知の方は「え そんな役ないじゃん!」と思われるかもしれませんが、あるんです!ここ!
わかります?Cariconi。歌うところは合唱と同じです(笑)
こうもりというのはオペレッタなので曲と曲との間に台詞が入ります。その台詞はプロダクション毎に演出家や台本作家が書く場合が多いのですが、この小澤バージョンだとカリコーニに5つくらい台詞がありました。しかもなぜかフランス語・ドイツ語・イタリア語・日本語。うぎょー!ヴォーカルコーチや各国から集結したソリスト達に発音を直される日々です。ありがたい。つらい。ありがたい。このカリコーニ、どうやらちょいチャラい宴会の盛り上げ役のようで、中でも一番の決め台詞が「とりあえずビール!」。自分自身がとりあえずビールの人間ではないので(最初から日本酒でもok派)、どこまで感情が込められていたかはわかりませんが、さすがに母国語なのでこの台詞の発音は注意されずにすみました。
しかし!
1日目の本番の直後、スタッフさんが僕の元に駆けて来て一言。
「小澤さんが呼んでます!」
…まじか。
続きは次回。